03. 青色個体

 ニホンザリガニは2000年に絶滅危惧種に指定されました。特に道央・道東での減少が著しいとされるなか、2007年には道東(網走方面)の青色個体が話題となり、以来、数年にわたり多数の青色個体が採集され換金されてきました。 

 オークションでは非常に高値で落札されているにもかかわらず、近年の出品者・出品個体数等を見ていると「目ぼしいものはほぼ採り尽くされた」状況がうかがえます。また、発表される写真などから、産地により異なるいくつかのタイプが有るように見受けられます。

 

 一方、北海道南部ではニホンザリガニの青色個体が発見されること自体非常に稀です。2002年伊達市内で1匹発見されたことが新聞報道されています。隣接する室蘭・登別地区で長年生息調査をされてきたK氏が見た青色個体の例は、見せてもらいに行ったこの報道された伊達市の1匹だけだそうです。自然好きの人でも「一生に一度出会うことが有るか無いか」といったレベルの話で、「採集してきてオクに出品する」といったレベルの話ではありません。

 

 今回(2012年秋)は、幸運にも♂♀の発見が重なり、大西飼育の♂を持ち寄ることにより、水族館飼育♀個体との繁殖の試みが実現しました。

 

 

 翌2013年7月、順調に誕生した稚ザリは2分の1を大西が引き取り、水道水を使った自宅での飼育にも挑戦しています。

 

 稚ザリ達は、秋には20mm前後に、2年目の秋には30mm前後、3年目の

2015年秋15令で約半数が交接しましたが産卵したものはいませんでした。いよいよ第3世代の誕生にむけて「累代繁殖」の段階に入ります。

  

 最初の一腹の子達なので「全きょうだい」での近親交配となりますが、ニホンザリガニが元来、湧水や沢の源流部といった他の個体群との交流困難な閉鎖的な環境の生き物なので、近親交配の弊害は小さいと考えます。むしろ逆に育種的には面白い結果が期待できるのではないかとも考えています。

 


  父親♂個体。2回の脱皮を経て左手のバーンスポット

    や触角の切れも回復。殻も新しくなって(脱皮2日後)

   ちょっとオトコマエ。

 

 水族館に最初に準備した飼育設備等に余裕があったことから、青×青の繁殖と平行して一般の茶褐色個体の繁殖・観察も行いました。上記を含め2013年21腹・稚ザリ726匹、2014年14腹601匹と多くの孵化・稚ザリを観察しました。引き続き飼育する一部のものを除き全て元の水域に放流しましたが、多数の稚ザリを観察したことにより母親から分離した段階(孵化後2週間・2令)での「青色個体」の特徴が見えるようになってきました。一方、一般的に説得力のある美しい青色の発色までには、孵化後15ヶ月もかかることもわかってきました。


 2012年秋、ニホンザリガニの飼育・繁殖に着手するにあたり、HP、ブログや論文などネット上からも多くのことを学びました。特に繁殖の難しさや失敗事例の記事は貴重なものでした。この分野での諸先輩の努力と情報公開に感謝し、今回の繁殖成功により得られた知見を公開していきます。


 ニホンザリガニは絶滅が危惧されている生物です。その一方、多数の採集個体が販売され消耗されている現実があります。 

 観賞価値の高い色変異個体が多くの人の手により繁殖され流通することにより、野生個体への採集圧が軽減され希少種の保護・自然環境保全へと繋がっていくことを望んでいます。